そして何も無くなった

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それは7月6日、夜遅くのことでした。
何者かが玄関のドアを勢い良く蹴飛ばして壊して、中に入ってきた。
フルフェイスのヘルメットをした屈強な男だった。顔は見えない。

左手には拳銃が確認できた。

そのまま男は僕たちとの距離が1メートル位になるまで近づいて、僕らの顔に銃口を向けた。

僕は殺されるのだとすぐに分かった。すべての思考は停止して、まるでこの世から時間の概念がすっかり消え去ってしまったかのように全員がしばらく硬直していた。

長い沈黙のあと「シャッラップ」と男は大声で叫んだ

僕らは両手をあげた

「立ち上がって壁にいけ」と言われる
僕らは席を立ち、壁に向かって歩いた。

「後ろを向け」と言われる
うしろを向く

「そのまま全員壁を向いて両手をあげて壁につけ」と言われる
両手を壁につく。全員視界を奪われてしまった。見えるのは壁だけだ。

 

僕は以前、この国では強盗が家の中に入ってきたら銃殺されるということを友人から嫌というほど聞いていた。

できることなら頭を撃ち抜いて、できるだけ痛みの少ない方法で殺してくれと心の中で願った。体を撃たれて悶え苦しみながら死ぬのだけはいやだ。

男が僕らのほうに近づいてきた。
僕の脇腹のうしろあたりに、銃を突きつける感触が確認できた。

心臓の鼓動が高鳴るのが自分でも分かった。その高鳴った鼓動は僕の喉の奥のところまできて、今にも口から出てしまいそうだった。
僕の意思とは裏腹に壁についていた両手はガタガタと震えていた。

男はそのまま近くのすべてのモノをカバンに詰めた。

そのあと慣れた手つきで机の上に置いてあったMacやら財布やらiPhoneやらを根こそぎカバンに入れた。

そして、うしろを向いている僕らに気づかれないようにゆっくりと隣のリビングに行った。

僕らは最初、男が帰ったのか他の部屋にいったのかどうかわからず、しばらく谷底に突き落とされたかのような時間を過ごした。

男は帰っていた。
振り向くと男の姿は消えていたので、僕らは倒れるようにして床に座った。

文字通りそこには何もなかった。
全員のMacもiPadもKindleもiPhoneもカメラも現金も何もかも無かった。
彼は近くに置いてあった僕のバッグにすべてのものを入れて持ち去って行った。

何かをしなければいけないのだけど、あまりの恐怖に全員放心状態となっていた。

ここにいたら殺される気がするけど、今から出て行くわけにもいかない。

地獄のような時間が流れる

全員放心状態のまま朝を迎えた。

とりあえず全員で警察署に向かう。

しかし、警察はろくに相手にしない。この国の警察は賄賂を払わなければ被害届すら書かないのだ。結局門前払いで終わってしまった

今、僕に残されたのは

服のみだ

 

やれやれ、本当のミニマリストになってしまった。

日本のアパートも解約したので本当に服だけが全財産だ。

仕方がないので、友人のパソコンを借りて紛失の諸手続きをする

しかし、男の悪は僕の想像をはるかに越えていた。

盗まれたiPhoneの連絡先に片っ端から「このiPhoneの持ち主のパソコンのパスワードを教えなければお前を殺す」とメールを送っていた。
さらに男は盗んだkindleで大量に本を購入していた(全部日本語の本なのでただの嫌がらせだろう)
そして銀行カードも悪用されてしまい、現金も大量に盗まれてしまった。

どうやったら人間はここまで悪になれるのだろうか
どうしてそんなにモノや金に執着するのだろうか

とりあえずなんとかしなければ生きていけない

モノも金もない状態で果たして人間は生きていけるのだろうか

途方にくれながら今日が僕の誕生日だったことを思い出した。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ということで4年間かけて集めた「人生に必要な持ち物リスト」も全て失ってしまいました。
さすがに服だけは生きていけないので、日本に緊急帰国しようと思います。

日本での取材や、オフ会、会って話したいというお問い合わせがいくつかあったので順番にやっていって、モノも最低限買い終わったらまた海外に出たいと思います。会いたい方、お問い合わせがある方は以下のフォームからお願いします。ご気軽に。

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    7/11 追記
    どうしようもないのでAmazonの欲しい物リストを公開しました。TシャツとパンツとヘッドホンとKindleだけですが助けていただける方はお願いします。
    伊藤光太の欲しい物リスト

    2 thoughts on “そして何も無くなった

    • 服、購入させて頂きました!いつも楽しみに見ていただけに、私もすごく哀しいです。多くの人が幸せに暮らせる日が、いつか訪れることを切に願います。

      • 本当にありがとうございます!!
        数日ぶりに新しい服に腕を通して、
        きれいな服が着れるというのはこんなに素晴らしいことなんだ・・・
        と半分涙目になりながら実感しました。

        ずっと大切に着て行きたいと思います。

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